つみきろく

まいにちご自愛しています

ノータイトル

今日は目が覚めたときに涙を流して泣いていた。

目覚める前から泣いていると気がついていた。夢の中でわたしはある人と会っていた。

 

彼女はわたしの小学校のときの担任で、わたしが単に先生と呼べばそれは彼女のことである。

先生は病気だった。乳ガン。先生がそうであると知ったのはわたしの成人式の日だった。

「実は片方の乳房がないの。わたしは結構グラマーな方だから、なくなって、ほんとに辛いのよ」

片胸に手を当てて寂しそうに言った先生は続けて「余命は三年だ」と言った。

 

わたしは、三年のうちに先生と何ができるか考えていた。なるべく多く先生に会おう。折を見て連絡をいれて何度か食事を共にした。

いまならもうちょっと気の利いた店もわかるのに。わたしたちはいつもファミレスで何時間も近況を話し合った。

わたしは学校や同級生の話をした。先生は仕事の話や病気の話をした。

こんなに治療を続けているのに、いつまでたってもマーカーの値は下がらない。

「もしつぎガンが見つかってね。それがもう片方のおっぱいだったら。死んでもいいから、取るのはやだなって言ったら。旦那さんにすっごく怒られちゃったの」

 

気がついたら外に食事に行ける機会も少なくなってしまっていた。

教えてねと言うのにいつでも先生は入院したことを教えてくれなかった。退院してしばらくして、「実は入院してたのよ」とメールをくれる。毎度毎度、どうしてその時教えてくれないの!とわたしは返信して「ごめんごめん」先生は返してきた。

 

「血を洗面器一杯吐いてね。いま入院しています」そのメールは突然やってきた。わたしはいてもたってもいられなくなって仕事を早退して病院に向かった。病室の先生は思っていたよりも元気そうで、当時わたしが好きだったローソンのプライベートラインのクッキーを美味しそうに食べながら吐血したときの話をしてくれた。

いま思い返せば、その日の先生はもう自分が長くないと知っていた。元気に言葉を交わしたのはそれが最後だった。

 

先生が亡くなった日のことは、一月三十一日、その日付以外、あまり覚えていない。

 

先生と何かしていた。わたしは楽しくて終始笑っていた。生を感じる先生がそこにいるだけで十分すぎるほど楽しい。

たいして先生はちょっと怒ったふうで、わたしから一歩遠ざかった。

離れてみた先生の両胸は知っているよりだいぶ小さくて、わたしは、これが夢なのだと知った。

夢だとわかってからもストーリーは続いたけれど、わたしにはもうなんの価値もなくて、ただただがっかりだった。

目が覚めたら涙が流れていた。

 

スマホの日付を確認する。二月二日。

何番目に会いに来てくれたのかな。そんなことを考えていた。

 

 

 

 

 

先生へ

今年も会いに来てくれてありがとう。

大好きだよ。